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長崎地方裁判所 昭和51年(行ウ)3号 判決 1984年11月30日

原告 鶴丸春次

被告 佐世保税務署長

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四八年二月一九日になした原告に対する青色申告承認取消処分並びに昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  青色申告承認取消について

(一) 被告は、昭和四八年二月一九日、原告に対する青色申告承認の取消処分をなした。

(二) 原告は、右処分を不服として、被告に対し、同年三月一六日異議申立をなしたところ、被告は、昭和五〇年三月二七日棄却の異議決定をなしたので、原告は、同年四月一九日国税不服審判所長に対して審査請求をなしたところ、同所長は、昭和五一年二月二八日右審査請求を棄却した。

(三) しかしながら、原告には、所得税法一五〇条一項に該当するような事由は存在しないので、右取消処分は違法である。

2  更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について

(一) 原告は、昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税について、別紙目録(一)の「申告額」欄記載のとおり申告したところ、被告は昭和四八年二月一九日、同目録「更正額」欄記載のとおりの金額で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をなした。

(二) 原告は、右処分を不服として、被告に対し、同年三月一六日異議申立をなしたところ、被告は、同年六月一四日棄却の異議決定をなしたので、原告は、同年七月一〇日国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は、昭和五一年二月二八日右審査請求を棄却した。

(三) しかしながら、原告の右各年における所得等の金額は、右目録記載中の「申告額」欄記載のとおりであるから、被告の右処分は違法である。

3  よつて、原告は、被告に対して、本件青色申告承認取消処分、本件各所得税の更正処分及び本件各過少申告加算税の賦課決定処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち(一)(二)は認める(但し、異議申立の日は昭和五〇年一月四日である。)が、(三)は争う。

2  同2の事実のうち(一)(二)は認めるが、(三)は争う。

3  同3は争う。

三  被告の主張

1  青色申告の承認取消処分について

(一) 原告は、株式会社ポーラ化粧品本舗の商品を委託販売の方法によつて原告の下部組織を構成する販売員に販売させるところのいわゆるセールスマネージャー的事業即ち、事業所得を生ずべき業務を行う居住者であつて、もと被告から確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出すること(青色申告)の承認を受けたものである。

(二) 青色申告者は、事業所得の場合、その事業に係る帳簿書類の備付、記録及び保存が所得税法一四八条一項(青色申告者の帳簿書類)に規定する大蔵省令で定めるところに従つて行われていなければならない。すなわち、申告の根拠として備付けるべき帳簿は、所得の基因となる一切の取引が正確に組織的かつ継続的に記録された信頼性の高いものであることが必要である(所得税法一四八条一項、一四五条一号、一五〇条一項一号、同法施行規則五七条、五九条)。

(三) しかるに、原告は、金銭出納帳その他の帳簿も備付けず、経費の計算の基礎となる経費帳についても整理されたものはなく、領収書あるいは小切手帳の控えから抜出された集計表も重複部分が多くその正確性に欠けるものであつた。そして、現金出納帳及び経費帳に関する原始記録も備付けていなかつた。

(四) よつて、被告が、原告に対してなした所得税法一五〇条一項一号による青色申告の承認取消処分は適法である。

2  更正処分について

被告は、原告から提出された昭和四五年分及び同四六年分の各納税申告書に記載された別紙目録(一)記載中「申告額」欄の各金額が、被告の調査した金額と異なつていたので、その調査により同目録中の「更正額」欄の各金額のとおり更正処分をした。そして、各年度分の「事業所得」「不動産所得」の原告申告額、更正額、裁決額、被告主張額の内訳、並びに被告主張の「譲渡所得」の内訳は、別紙目録(二)記載の各年度別「申告額」欄、「更正額」欄、「裁決額」欄、「被告主張額」欄のとおりである。以下、被告の更正処分の補足説明をする。

(1) 昭和四五年分について

(ア) 事業所得の収入金額四〇六六万〇〇〇二円について

これは、原告が事業所得として申告してきたポーラ化粧品本舗北九州支店(以下「ポーラ本舗」という。)からの商品委託販売による歩合収入金三一四八万〇〇〇二円及び一般管理費に対する補助金七二〇万円(計三八六八万〇〇〇二円)に家賃援助金一九八万円を加算したものである。

原告は、右家賃援助金一九八万円を不動産所得として申告しているが、ポーラ本舗と原告との間には店舗についての賃貸借契約が締結されておらず、ポーラ本舗の家賃援助金の支払は商品の売上高を基準になされていることからして、ポーラ本舗が原告に支払つている家賃援助金は、その支払名目は違つていても、その目的は一般管理費に対する援助金と何ら性質を異にするものではなく、従つて、原告の申告を否認して、これを事業所得の収入金に加算したものである。

(イ) 事業所得の必要経費について

事業所得の必要経費(別紙目録(二)の1の(4))については、原告において、現金出納帳及び経費帳等の帳簿が備え付けられていないので、原告から提出された領収書、当座預金勘定帳、小口現金支払帳及び請求書から領収書を基に、各資料と照合のうえ、是・否認を行い、各経費科目別に算定し、取引先の反面調査により確認できた経費については、反面調査額によつたものである。原告の申告額と更正額ないし被告主張額との間に相当の差異が生じているのは、原告がその算定に当り、手持資料を基に正確に整理することなく、推計によつて計上しているためである。

なお<28>専従者控除一五万円は、青色申告の承認取消に伴い、原告の子である鶴丸陽子を所得税法五七条三項による白色事業専従者として控除したものである。

(ウ) 不動産所得について

不動産所得については、前記(1)(ア)で主張したとおり、事業所得の収入金に加算したものである。

(2) 昭和四六年分について

(ア) 事業所得の収入金額四四三〇万〇〇二九円について

これは、ポーラ本舗からの商品委託販売による歩合収入金三四二二万〇〇三九円、一般管理費に対する補助金八〇九万九九九〇円(計四二三二万〇〇二九円、原告は右補助金を八一〇万一五〇〇円と申告している。)に家賃援助金一九八万円を加算したものである。

原告は、右家賃援助金一九八万円を不動産所得として申告しているが、被告は前記(1)(ア)で主張した理由から、これを否認して事業所得の収入金に加算した。

(イ) 事業所得の必要経費について

事業所得の必要経費の算定方法は、前記(1)(イ)で主張したとおりである。なお<20>専従者控除一六万五〇〇〇円は、前記(1)(イ)で主張したとおりである。

(ウ) 不動産所得について

不動産所得については、前記(2)(ア)で主張したとおり事業所得の収入金に加算したものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実中(一)は認めるが(三)は否認する。

2  同2のうち、原告の申告額が別紙目録(一)・(二)記載の「申告額」欄に記載のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。

五  原告の反論

1  青色申告承認取消処分について

(一) 原告は、以下のとおり現金出納等に関する事項の記張をしていたし、原始記録を備え付けていた。すなわち、

(1) ポーラ化粧品の販売方法は、商品をポーラ本舗よりの委託によつて定められているものであり、したがつてその売上代金として原告の下部組織を通して原告へ送金される金銭はポーラ本舗のものであるという観念から、委託販売売上金のみを処理する経理管轄下の銀行預金口座が設けられて処理されていて、営業主たる原告が本舗から受領する手数料が、その銀行口座から毎月定期的に精算されて支払われることになつていた。したがつて、その銀行預金から小口の支払に対処する為の払出金額のみを小口現金出納帳として記帳整理すれば、原告の現金取引に関する処理としては、それで十分であり、銀行預金口座を現金出納帳と同様の目的で使用していたといえるのであるから、それ以上の現金出納帳を必要としなかつたのである。

(2) 原告の領収書の保存状態は良好であり、帳簿は、一応つけてあつて、他の書類からの計算が可能であつたから、原告は、原始記録を備え付けていたというべきである。

(二) 青色申告承認のための形式的要件としての帳簿書類の記録備付の意義は、所得の計算に支障のない程度の記録備付と解すべきであり、原告の帳簿書類の記録備付状況は、右形式的要件に合致するものである。

(三) のみならず、被告は、原告に対するたびたびの指導、調査等において、原告の帳簿組織及び記録が青色申告の要件に合致していることを確認している。すなわち、昭和四三年及び昭和四四年の秋に指導調査が行われ、昭和四三年分の更正請求に対する更正処分に際しても右更正のための調査が行われ、昭和四五年九月上旬ころ、次いで昭和四六年一〇月及び同年一二月には青色申告係による記帳指導が行われており、原告は、右各行政指導に従つて帳簿の整備及び記帳をしてきたのであるから、被告の青色申告承認取消処分は、被告の行政指導に対する原告の信頼を反故にするに等しく、これは、信義誠実の原則に反するものである。

2  更正処分について

(一) ポーラ化粧品本舗からの家賃収入一九八万円については、これを不動産所得とみるべきである。すなわち、原告とポーラ本舗間の委託販売契約に基づき、委託者は受託者に対して、取決めにより家賃として月額いくら支払う旨の約定があつたのであるから、原告とポーラ本舗との間には賃貸借契約が存在し、この家賃収入は事業所得とはいえず、不動産所得になるというべきである。

(二) 必要経費金額について

(昭和四五年分)

<1>公祖公課について

(ア) 原告は、昭和四五年四月一日、宮崎町の建物(現在の事務所)の不動産取得税八一万五一八〇円を支出したが、右は事業のための必要経費として計上すべきである。

(イ) 原告は、昭和四六年一月二七日、固定資産税九万一四〇〇円及び自動車税二万一〇〇〇円を支払つたが、右は昭和四五年分の必要経費に計上すべきである。

<4>旅費交通費について

(ウ) 原告は、小口現金出納帳から一〇回にわたり、旅費として一万三一三一円を支出しているので、昭和四五年分の必要経費に計上すべきである。

<7>接待交際費について

(エ) 原告は、別紙目録(三)記載のとおりゴルフの費用として合計二六万一九〇〇円を支出しているが、これは事業に関係ある取引先との接待交際のための支出金であるから経費に計上すべきである。

(オ) 原告は、昭和四五年一二月二〇日、ブルシーに対し、四万九九九五円を支出しているが、これは、必要経費として計上すべきである。

(カ) 原告は、カントリークラブに対し、昭和四五年八月二五日に一万三二〇〇円を、同年一二月二五日に二万五八八〇円をそれぞれ支払つたが、右は交際・接待のための支出金であるから、必要経費として計上すべきである。

(キ) 原告は、別紙目録(四)記載のとおり支出しており、右は事業経営のために支出したものであるから経費として計上すべきである。

<10>消耗品費について

(ク) 原告は、昭和四五年九月一六日ろ過器代として三万六〇〇〇円を支払つたが、右は、営業用の焼却器(ゴミ焼器)購入費用であるから、営業経費で必要経費として計上すべきである。

<11>福利厚生費について

(ケ) 原告は、その使用人の健康保険及び厚生年金について原告負担で支払つているので、支払つた金員の全額六九万八六四四円は、必要経費として計上すべきである。

<14>教育費について

(コ) 原告は、従業員であつた吉田孝に対して昭和四五年六月一六日三五〇〇円、同年七月二〇日三五〇〇円、同年九月一八日七五〇〇円の合計一万四五〇〇円(会場費、自家分)を支出しているが、右は、吉田孝が教育関係の諸雑費の支払に充てるために支出したもので、原告の事業のための支出金であるから、必要経費として計上すべきである。

(サ) 原告は、セールスマン教育費として三九万四二八〇円を支出しているが、右は、必要経費として加算すべきである。

<22>雑費について

(シ) 原告は代書人吉迫宏身に対して宮崎町の建物のための登記諸費用一三万五九七〇円(昭和四五年一二月一七日九〇〇〇円、同月一〇日一二万六九七〇円)を支払つたが、右は原告の事業のための経費であるので、必要経費に計上すべきである。

(ス) 原告は、昭和四五年一月二七日原口洋服店に三万七〇〇〇円を支払つたが、右は武雄ポーラ化粧品販売店店主中尾剛久のために支出したものであるから、営業上の必要経費として計上すべきである。

(セ) 原告は昭和四五年七月九日東興産業に二万三六〇〇円を支払つたが、右は必要経費として加算すべきである(被告はこれを否認しているが、これは二重否認である。)。

(ソ) 被告は、領収書のない経費として月平均二万円合計二四万円を推計加算しているが、右は、昭和四六年の原処分による同じ推計額九六万円に比して余りに過少であるから、もつと増額すべきである。

<23>雇人費について

(タ) 原告は、昭和四五年一月六日付で一万二〇〇〇円、同年三月三日付で二万円、同年五月一日付で二万円の合計五万二〇〇〇円の人件費を支出しているが、右は常雇の従業員に対する給与と異なり、臨時的な雇用者に対する給与であるから、必要経費として計上すべきである。

<25> 地代家賃

(チ) 原告は、当時の営業所の地代として、昭和四五年一月二九日、同年二月二八日、同年三月三一日、同年五月三〇日の四回にわたり合計二万円を支出したが、右は事業の必要経費として計上すべきである。

<26>借入金利子割引料

(ツ) 原告は、大村カントリークラブ会員権取得のための借入金利息として昭和四五年中に合計七四一五円を支出したが、右は事業のための支出であるから必要経費として計上すべきである。

<28>専従者給与について

(テ) 被告は、専従者給与三〇万円のうち一五万円を否認しているが失当である。すなわち、鶴丸陽子は原告の長女であるが、原告と陽子との労働関係は、原告と他人である従業員との労働関係と同じ雇傭関係契約に基づくものであつて、原告は、陽子が他の従業員よりも有能であり、事業の追行のために有益であつたればこそ雇傭しているのである。その給与が税法上否定されるか、若しくは制限されるならば、親族を労働に従事せしめるが故に他人を使用する場合よりも多額の税金を負担しなければならないのであつて、法の下の平等を定めた憲法一四条に違反する。所得税法五七条三項は、右の意味において違憲である。

(昭和四六年分)

<6>交際費について

(ト) 原告は、昭和四六年二月二七日日興レストランにおける食事代八一九二円、及び同年四月五日沖竜園における食事代六九三〇円をそれぞれ支出した外、七回にわたり交際費として合計二八万五三三五円を支出しており右は経費として加算すべきである。

<12>教育研究費について

(ナ) 原告は、昭和四六年二月一六日教育研究立替金五万円を支出しているので、必要経費に算入すべきである。

<13>販売督励費について

(ニ) 原告は、右経費として一万二三三一円を支出しているのでこれを計上すべきである。

(ヌ) 右経費につき店主メモによる九一万七八一三円(乙第四九号証)を計上すべきである。

<16>雑費について

(ネ) 原告は、商工会議所の通常年会費又は新築特別会費として金一〇万円を負担しており、これを経費に計上すべきである。

(ノ) 被告は、原告の立替金一二二万二五三〇円の二分の一を不明金として否認しているが、この金額は、資金担当者によつて立替えられた一般経費であるから、経費として計上すべきである。

(ハ) 乙第九号証で否認した雑費三六万五六四八円を必要経費として計上すべきである。

<19>借入金利子割引料について

(ヒ) 原告は、借入金利息一一九万一二〇一円を支出しているが、右は事業のための先行投資による土地取得のためのもので、事業の必要経費である。

(フ) 原告は大村カントリークラブ会員権取得のための借入金利息として昭和四六年中に合計二万〇一六一円を支出したが、右は事業のための支出であるから必要経費として計上すべきである。

六  原告の反論に対する被告の認否、反論

原告の反論はすべて争う。

なお、原告は、白色申告者において税法上親族に対し支払つた事業専従者給与を制限している所得税法五七条三項は憲法一四条に違反する旨主張するけれども、<1>わが国においては、未だ一般に家族の間において給与等対価を支払う慣行がなく、事業から生ずる所得は通常世帯主が支配しているとみるのが実情に即していること、<2>原告主張のように、給与等対価の支払という形式にとらわれてこれを一般的に必要経費と認めることとすると、家族間の取決めによる恣意的な所得分割を許すこととなり、税負担のアンバランスをもたらす結果となること、<3>わが国では記帳習慣がまだ一般的とはなつておらず、企業と家計との区分が必ずしもはつきりしていないから、給与等対価の支払の事実の確認に困難が伴うこと等の諸事情を考慮して、同法五六条において、その納税義務者の所得に含めて課税する建前をとつているが、他面、企業会計的思考からすれば、右対価は経費性を有する面があるため、同法五七条三項において白色申告者にも事業専従者控除を認めるに至つたものであつて、右規定は十分合理性を有するものであるから、憲法一四条に違反しない。

第三証拠関係<省略>

理由

第一青色申告承認取消について

一  被告が昭和四八年二月一九日原告に対する青色申告承認の取消処分をしたこと、原告が右処分を不服として被告に対し異議申立をしたところ、被告はこれに対して昭和五〇年三月二七日棄却の異議決定をしたこと、原告は同年四月一九日国税不服審判所長に対して審査請求をしたが同所長は昭和五一年二月二八日右審査請求を棄却したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。なお、成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の異議申立の日は昭和四八年三月一六日であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで原処分の正当性について検討する。

1  成立に争いのない乙第四号証の一・二、同第三二号証、同第五七号証、同第六七号証、証人江藤安國(第一・第二回)及び同伊東満男の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、ポーラ化粧品本舗の商品を委託販売の方法によつて原告の下部組織を構成する販売員に販売させるいわゆるセールスマネージャー的事業を営む事業即ち所得を生ずべき業務を行う居住者であつて、もと被告から確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出すること(青色申告)の承認を受けたものである。

(二) ところが昭和四七年一一月から同年一二月ころにかけて、佐世保税務署国税調査官江藤安國(以下江藤調査官という。)が原告の事業所に昭和四五年分の所得調査に赴いた際、原告の従業員は、領収書、当座預金の振替伝票及び小口現金手控帳を提出するのみで、他に現金出納帳など原告の取引を整然かつ明瞭に記録した帳簿等を提出しなかつた。そのため江藤調査官は、右領収書から昭和四五年分必要経費内訳書(乙第四号証の一)のA表を、右当座預金の振替伝票から同年分の振替伝票の内訳書(同第四号証の二)を、右小口現金手控帳から同年分必要経費内訳書(同第四号証の一)のB表を、それぞれ勘定科目ごと、月合計、年合計の金額を算出集計して作成し、不明な点については、原告方従業員岩坪市作に質問しあるいは取引先等に対し経費の支出について反面調査を行なつた。

(三) 同じ頃、佐世保税務署上席調査官伊東満男(以下伊東調査官という。)が原告の事務所に昭和四六年分の所得調査に赴いた際も、同事務所には経費帳はあつたものの、満足に整理されたものではなく、小切手帳の控えから整理されたA表、B表及びC表なるものがあつたが、この各表には重複部分が多く、結局、伊東調査官は、これらを参考にすることなく、領収書あるいは小切手帳の控え等から調査せざるを得なかつた。

(四) 後記のとおり昭和四八年七月一〇日原告が昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税の更正処分等に対して国税不服審判長に審査請求をする際も、原告からは、帳簿その他の資料が提出されなかつた。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2  ところで、青色申告承認の根拠としての帳簿の備付については、所得税法一四八条一項、所得税法施行規則五六条ないし六四条が規定しているところ、右各規定の趣旨は、申告納税制度が租税負担の確定、実現を、納税義務者の申告に基づくものとし、その自主性を尊重する反面、その申告が恣意的になるおそれを避けるため、青色申告制度を設け、青色申告者について白色申告者にない多くの特典を与えるかわりに、所得の基因となる一切の取引を正確、組織的かつ継続的に記帳し、かつ、記帳した帳簿の保存を義務づけて、これに基づいた申告をなさしめることによつて、申告納税制度の円滑かつ適正な運用を図ることにある。

したがつて、青色申告承認の根拠としての帳簿の備付は、原告が主張するように所得の計算に支障がないという程度では足りず、その帳簿の記載のみによつて所得を把握できる程度に正確であり、形式においても正規の簿記の原則に則つた整然かつ明瞭なものでなければならない。

3  これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、原告は各種帳簿の基本をなす金銭出納帳を備付けていなかつたばかりか、その他の帳簿の備付も不十分であり、経費の計算の基礎となる経費帳についても整理されたものはなく、領収書あるいは小切手帳の控えから整理された集計表も重複部分が多く、調査の際にはこれを除外して計算をしなければならなかつたのであつて、その帳簿の記載のみによつて所得を把握できる程度に正確であるとは到底いうことができないし、形式においても正規の簿記の原則に則つていないから、青色申告者に課せられた義務に違反していることは明らかである。

そうだとすれば、被告が所得税法一五〇条一項に基づき昭和四五年に遡つて青色申告承認を取消した処分は適法というべきであつて、原告の主張は失当である。

なお、原告は、被告の原告に対する度々の指導、調査等において、原告の帳簿組織及び記帳が青色申告制度の要件に合致することを確認し、原告においても右行政指導に従つて帳簿の整備及び記帳をしてきたのであるから、本件取消処分は信義誠実の原則に反する旨主張するけれども、被告が原告に対し原告の帳簿組織及び記帳が青色申告要件に合致することを積極的に確認したことを認めるに足りる証拠はないし、右主張自体被告の本件処分を違法とするほどの事情といえず、結局原告の右主張は理由がない。

第二更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について

一  原告が昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税について別紙目録(一)の「申告額」欄記載のとおり申告したところ、被告は昭和四八年二月一九日同目録「更正額」欄記載のとおりの金額で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたこと、原告は右処分を不服として被告に対し同年三月一六日異議申立をなしたところ、被告は同年六月一四日棄却の異議決定をしたこと、これに対して原告は同年七月一〇日国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は昭和五一年二月二八日右審査請求を棄却したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  昭和四五年分所得税の更正処分について

1  昭和四五年分所得のうち給与所得金額が一万六〇〇〇円であり、所得控除額が七九万七五〇〇円であること、事業所得に関する収入金のうち歩合収入金が三一四八万〇〇〇二円であり、一般管理費補助金が七二〇万円であること、以上の事実については当事者間に争いがない。

2  被告は、右歩合収入金と一般管理費補助金の合計三八六八万〇〇〇二円の外に原告がポーラ本舗から受け取つた家賃援助金一九八万円を事業所得の収入金に加算すべきであると主張するのに対し、原告は、右一九八万円を不動産所得とすべきであると反論する。

そこで検討するに、成立に争いのない乙第三号証の一・二、証人江藤安國(第一・第二回)及び同毛利十三春の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は佐世保市宮崎町に土地、建物を所有し、右建物を店舗として利用していること、ポーラ本舗と原告との間には、店舗についての賃貸借契約が締結されていないこと、ポーラ本舗からの前記家賃援助金の支払は商品の売上高を基準になされており、定額の支払でないこと、以上の事実が認められ、右認定に反する甲第一号証の記載内容及び証人諸隈正の証言は、前掲各証拠に照らして信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定事実に徴すれば、前記家賃援助金一九八万円は原告の営む化粧品受託販売業に附随して生じたもので事業所得として計上すべきであつて、不動産所得に計上すべきではないから、原告の反論は失当である。

よつて、原告の事業所得の収入金の合計は、四〇六六万〇〇〇二円になるというべきである。

3  必要経費について

(一) 所得税更正処分の取消訴訟において、右処分の適法性を主張する行政庁は、所得税の課税標準たる所得金額につき立証責任を負担するのが当然であり、収入金額から必要経費を控除したものが所得税の課税標準たる所得金額であるから、必要経費の存否及び額の立証責任も原則として行政庁側にあるものと解すべきであるが、納税義務者が行政庁の認定額を越える多額の必要経費を主張しながら、具体的にその内答を指摘せず、行政庁として係争部分の存否、額についての検証の手段を有しないときには、経験則に徴し相当と認められる範囲でこれを補充しえないかぎり、これを架空(不存在)のものとして取扱うべきである(広島高裁岡山支部昭和四二年四月二六日判決行集一八巻四号六一四頁参照)。

(二) 別紙目録(二)記載の昭和四五年分の必要経費金額について

(<1>公租公課について)

(ア) 原告は、昭和四五年四月一日支出の不動産取得税八一万五一八〇円は、前記宮崎町の建物の不動産取得税であり、事業のための必要経費である旨主張し、成立に争いのない甲第一号証及び証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存在する。しかし、証人江藤安國(第一・第二回)の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一三号証、同第二六号証の三並びに弁論の全趣旨を総合すると、右八一万五一八〇円の不動産取得税は営業に関係のない個人的生活費支出であること、右建物の昭和四五年における課税標準額が二〇五四万三九〇〇円でこれに対応する不動産取得税額は六一万六三一七円で前記金額と相当喰い違つていることが認められ、これらに照らせば前記甲第一号証の記載及び証人諸隈正の証言は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(イ) 原告は、昭和四六年一月二七日支払の固定資産税九万一四〇〇円及び同日支払の自動車税二万一〇〇〇円を昭和四五年分の必要経費に計上すべきであると主張し、前掲甲第一号証、証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存在するけれども、他方、前掲乙第二六号証の三、成立に争いのない乙第一一号証の三、証人江藤安國(第一回)の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四号証の一、同第二六号証の四ないし六並びに弁論の全趣旨を総合すると、江藤調査官は、原告の公租公課についての調査は領収書等を基にすることなく、反面調査の方法により固定資産税については市役所、自動車税については県の財務事務所をそれぞれ調査し、昭和四五年分として納付すべき固定資産税の総額及び自動車税の総額を確定した上、この全額を経費として計上していることが認められ、これに照らせば原告の前記主張は採用できない。

(<4>旅費交通費について)

(ウ) 原告は、一万三一三一円を旅費交通費として計上すべきであると主張するけれども、前掲乙第四号証の一、証人江藤安國(第一回)の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第二九号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、右金額は小口現金出納帳から一旦旅費として支出されたが、その後精算金として戻入されたことが認められるから、原告の右主張は失当である。

(<7>接待交際費について)

(エ) 原告は、別紙(三)記載の金員合計二六万一九〇〇円は事業に関係ある取引先との接待交際のための支出金であると主張し、証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存在するけれども、前掲乙第一三号証、証人江藤安國(第一回)の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一五号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告はゴルフが趣味で毎月定期的に佐世保カントリークラブでプレーをしていること、領収書の内容もゴルフ場主催の大会等のものが多いこと、五月二八日のプレー以外は全て月末であり定期的であること、五月二八日の分は金額が少額で一人分の費用に過ぎないこと、一二月分の一〇九〇円については、支出金額を証するものが単なるメモであつてその支払先も明らかでないことが認められ、これによれば原告の主張にそう前記証言は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(オ) 原告は、ブルシーに対する支出金額四万九九九五円を必要経費として計上すべきである旨主張し、前掲甲第一号証及び証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存在するけれども、前掲乙第一三号証、証人毛利十三春の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第三五号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すると、振替伝票一二月二〇日欄には、四万九九九五円とあり、領収書中にはブルシーに対する支払が一一月二日一万七九三〇円、同月一一日一万〇一七五円、同月一三日一万五九五〇円、同月二九日五九四〇円の四枚があり、この合計額が四万九九九五円で前記振替伝票の金額と同額であるから重複計上分と認めるのが相当であつて原告の主張にそう前記証拠は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(カ) 原告は、昭和四五年八月二五日及び同年一二月二五日にカントリークラブにそれぞれ支払つた一万三二〇〇円及び二万五八八〇円はいずれも交際・接待のための支出金であるから必要経費として計上すべきであると主張し、証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存するが、右証言自体抽象的なものであつて、右主張を裏付ける程度のものとはいえず、前記(エ)で認定した事情を考え合わせると右証言は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(キ) 原告は、別紙目録(四)記載のとおり支出し右は事業経費である旨主張する。しかし、前掲乙第一三号証、証人江藤安國(第一回)の証言によれば、右目録記載のとおりの支出がなされその旨の領収証が存在することが認められるが、右事実に前記(エ)認定の事情を併せ考えると、右はいずれも店主の生活費関係の支出と認めるのが相当であり、事業経費であることを認めるに足りる証拠もないので原告の右主張は理由がない。

(<10>消耗品費について)

(ク) 原告は、昭和四五年九月一六日支払のろ過器代三万六〇〇〇円は営業用の焼却器購入費用であると主張し、前掲甲第一号証及び証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存在するけれども、前掲乙第一五号証、証人江藤安國(第一回)の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、右三万六〇〇〇円は原告の自宅用のろ過器代であること、ろ過器と焼却器は、その構造、用途ともに全く異なることが認められ、原告の主張にそう右証拠は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(<11>福利厚生費について)

(ケ) 原告は、その使用人の健康保険及び厚生年金については原告負担で支払つているので支払金員の全額六九万八六四四円を必要経費として計上すべきであると主張するけれども、健康保険法七二条、七八条、厚生年金保険法八二条、八四条によれば、事業主に使用人の負担すべき各保険料の納付義務を負わせ、右保険料の二分の一を事業主に負担せしめ、事業主が使用人に報酬を支払う際、右各保険料のうちの使用人負担部分を報酬から控除することができる旨規定しているのであつて、事業主が保険団体に現実に納付した額の二分の一は、本来事業主に支払義務のない立替払の性質を持つものであるから、必要経費として認めることはできず、原告の主張は失当である。

(<14>教育費について)

(コ) 原告は、その従業員であつた吉田孝に対して支出した合計一万四五〇〇円は同人が教育関係の諸雑費の支払に充てるために支出したもので必要経費として計上すべきである旨主張し証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存するけれども、前掲乙第一三号証、同第一五号証、証人江藤安國(第一回)の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、右金員は原告方事業所の会議室を使用した使用料名目で原告の従業員である吉田孝に支払われているが、その支出内容は必ずしも明らかでないことが認められるから、原告の主張にそう右証拠は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(サ) 原告は、セールスマン教育費三九万四二八〇円を必要経費として加算すべきである旨主張し、証人諸隈正の証言中には右主張にそう部分も存在するけれども前掲乙第二九号証、成立に争いのない甲第五号証、証人江藤安國(第一回)の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の小口現金出納帳は支出の都度計上され、仮払金として支出されたものも含まれていること、セールスマン教育費のうち三九万四二八六円については仮払金の精算金として返納されたものであること、以上の事実が認められるから、原告の主張にそう前記証拠は信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(<22>雑費について)

(シ) 原告は、代書人吉迫宏身に対して支払つた宮崎町の建物のための登記諸費用一三万五九七〇円は、原告の事業のための経費である旨主張するけれども、前掲乙第一五号証、及び証人江藤安國(第一回)の証言によれば、右支出金額は既に経費に算入済であることが認められるから、右主張は失当である。

(ス) 原告は、昭和四五年一月二七日原口洋服店に支払つた三万七〇〇〇円は、武雄ポーラ化粧品販売店店主中尾剛久のために支出したものであるから、営業上の必要経費として計上すべきであると主張し、証人諸隈正の証言中には、中尾に賞品として洋服を贈つた旨の供述部分も存在するけれども、証人江藤安國(第一回)、同毛利十三春の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和四六年にも原告自身のために原口洋服店で洋服を作成した費用を経費として計上していることが認められるうえ、前記諸隈証言自体不自然であるから信用できず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(セ) 原告は、東興産業へ支払つた二万三六〇〇円は二重否認であるので同額を経費として加算すべきであると主張するけれども、前掲乙第四号証の一、同第一五号証、証人江藤安國(第一回)の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一六号証、同第一八号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、当座勘定帳科目別集計表(B表、乙第一六号証)七月九日付雑費二万三六〇〇円は領収証による否認、追認調整表(乙第一五号証)で追認し、すでに経費に含まれることになるので否認したこと、したがつて当座勘定帳科目別集計表(B表、乙第一六号証)の二月二〇日付雑費二万三六〇〇円をさらに二重に否認したものではないこと、以上の事実が認められるから、原告の前記主張は失当である。

(ソ) 原告は、被告の推計した二四万円の雑費計上は、昭和四六年の原処分による同じ推計額九六万円に比して余りに過少であるからもつと増額すべきであると主張するけれども、証人江藤安國(第一回)の証言及び弁論の全趣旨によれば、推計二四万円は、昭和四四年分ないし昭和四六年分の領収書その他の経費関係資料を総合勘案して、昭和四五年分の領収書のない経費を推計したものであることが認められ、その推計に不合理な点をみいだすことができず、原告の前記主張は失当である。

(<23>雇人費について)

(タ) 原告は、合計五万二〇〇〇円の人件費は、常雇の従業員に対する給与と異なり、臨時的な雇用者に対する給与であるから、必要経費として計上すべきである旨主張するけれども、これに副うかの如き成立に争いのない甲第一号証及び証人諸隈正の証言もいずれも具体性に乏しく、原告の常雇の従業員以外の誰にどのような仕事で給与を与えていたのか等が明らかでなく、結局原告の前記主張を認めることができない。

(<25>地代家賃)

(チ) 原告は、昭和四五年当時の営業所の地代として合計二万円を支出したので事業の必要経費とすべき旨主張するが、前掲乙第一三号証、同第一六号証、同第一八号証並びに証人江藤安國(第一回)の証言によれば、原告はその主張の日に合計二万円を支出したが右は佐世保市戸尾町の土地についてのもので営業所所在の同市宮崎町の土地に関するものではないことが窺われるから、原告の右主張はその理由がない。

(<26>借入金利子割引料について)

(ツ) 原告は、大村カントリークラブ会員権取得の借入金利息は事業のための支出であるから必要経費として計上すべきであると主張するけれども、証人江藤安國(第一回)の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の大村カントリークラブの会員権取得と原告の事業とは何ら関係がないことが認められ、原告の主張を認めるに足りる証拠はないから、右主張は失当である。

(<28>専従者給与について)

(テ) 前記認定説示のとおり、被告が原告に対して、昭和四五年に遡つて青色申告承認を取消した処分は適法であり、原告には青色専従事業者は認められないから、被告が鶴丸陽子を白色事業専従者として取扱い、昭和四六年法律第一八号による改正前の旧所得税法五七条三項にしたがい、その専従者控除額を一五万円としたのは相当というべきであり、三〇万円の控除を主張する原告の主張は理由がない。

また原告は、親族の専従者給与について、所得税法五七条三項は、親族を労働に従事せしめるが故に他人を使用する場合よりも多額の税金を負担しなければならない制度であつて、法の下の平等を定めた憲法一四条に違反すると主張するけれども、<1>わが国では、必ずしも家族従業員に給与等対価を支払う慣行がなく、却つて、家族従業員に多額の給与等を支払う形式を取つて経費を水増しし、あるいは現実に労働に従事していない家族従業員に右対価を支払う例も少なくないこと、<2>そのため家族間の恣意的な取決めによる税負担のアンバランスをもたらすことを防止する目的のために、所得の基因となる一切の取引が正確に組織的かつ継続的に記録された信頼性の高い帳簿を備付けていない白色申告者の親族に対する事業専従者給与控除を制限する必要があること、<3>そして、専従者控除の制限の態様も必要経費性を全く否定するものでないばかりか、青色申告制度を活用することによつて専従者控除の対象を拡げる途もあること、以上の諸点を考慮すれば、親族と他人との間で経費性に差異を設けた所得税法五七条三項は、合理的な差別というべきであつて憲法一四条に違反しないから、原告の主張は失当である。

(三) 原告は、昭和四五年分の事業所得の必要経費について、以上の外に別紙目録(二)の「申告額」欄記載の金額が存在すると主張するけれども、その主張は、具体的にその内容を指摘せず、被告において係争部分の存否あるいは額についての検証の手段も有しないし、経験則上その主張が相当であるとも認められないから、同目録(二)の「被告主張額」欄記載の金額を越えて必要経費が存在するとは認めることができない。

よつて、原告主張の昭和四五年分の必要経費金額のうち右「被告主張額」欄記載の金額を越える部分は、いずれも失当であつて、原告の必要経費は二三七五万一九九七円になるというべきである。

三  昭和四六年分所得税の更正処分について

1  昭和四六年分所得のうち所得控除額が七〇万七五〇〇円であること、事業所得に関する収入金のうち歩合収入金が三四二二万〇〇三九円であること、は当事者間に争いがなく、譲渡損が五八万七五八九円であること、一般管理費補助金が八〇九万九九九〇円であること、以上の事実については弁論の全趣旨によつて認めることができ、これに反する証拠はない。

2  被告は、右歩合収入金と一般管理費補助金の合計四二三二万〇〇二九円の外に原告がポーラ本舗から受取つた家賃援助金一九八万円を事業所得の収入金に加算すべきであると主張するのに対し、原告は右一九八万円を不動産所得とすべきであると反論するけれども、前記二2で判示したのと同様の理由により右家賃援助金は事業所得として計上すべきであつて、不動産所得として計上すべきではないから、原告の反論は失当である。

よつて、原告の事業所得の収入金の合計は、四四三〇万〇〇二九円になるというべきである。

3  必要経費について

(一) 別紙目録(二)記載の昭和四六年分の必要経費金額について

(<6>交際費について)

(ト) 原告は、日興レストラン及び沖竜園における食事代、並びにその他の合計二八万五三三五円を交際費として加算すべきであると主張するけれども、証人毛利十三春の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四一号証の一、同第五九号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、右支出は、岩坪からの聴取、及び領収書の内容等から個人的支出と認められ、結局原告の主張を認めることができず、右主張は失当である。

(<12>教育研究費について)

(ナ) 原告は、昭和四六年二月一六日支払の教育研究立替金五万円を必要経費に算入すべきであると主張するけれども、証人毛利十三春の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、この教育研究立替金は精算されておらず、支出内容・金額とも確定していないことが認められ、債務が確定していない以上経費に算入されないのは当然であつて、原告の主張は失当である。

(<13>販売督励費について)

(ニ) 原告は、販売督励費として一万二三三一円を計上すべきであると主張するけれども、証人毛利十三春の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第九号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、右支出は領収書の内容から個人的な支出と認められ、結局原告の主張を認めることはできず、右主張は失当である。

(ヌ) 原告は、右経費として店主メモによる九一万七八一三円を計上すべきであると主張するけれども、証人毛利十三春の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、店主メモによる右金員は事業とは何ら関係のない事業主個人の支出分であることが認められ、結局原告の主張を認めることができず、右主張は失当である。

(<16>雑費について)

(ネ) 原告は、雑費として商工会議所の通常年会費又は新築特別会費一〇万円を計上すべきであると主張するけれども、成立に争いのない乙第六八号証、証人毛利十三春の証言及びこれにより真正に成立したことが認められる乙第三八号証の四並びに弁論の全趣旨を総合すると、昭和四六年当時の商工会議所通常年会費総額は四〇〇〇円であること、右金員が昭和四六年六月一四日に振り込まれていることが認められるから、右主張は失当である。

(ノ) 原告は、被告が立替金一二二万二五三〇円の二分の一を不明金として否認しているが、この金額は資金担当者によつて立替えられた一般経費である旨主張するけれども、前掲乙第五九号証、証人毛利十三春の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第三六号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、右立替金の内容について原告側の責任者である岩坪次長も具体的な答弁はなし得ず、かつ領収書等の提出もなく、支出内容も確認できないばかりでなく、右支出を経費として認めるに足る資料もないものであることが認められ、そうだとすれば、右立替金についてはその全額を必要経費として認めることができないので、原告の主張は失当である。

(ハ) 原告は、乙第九号証で否認した雑費三六万五六四八円を必要経費として計上すべきであると主張するけれども、前掲乙第九号証、証人毛利十三春の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば右支出は領収書の内容から個人的支出分と認められ、結局原告の主張を認めるに足りる証拠はないから、右主張は失当である。

(<19>借入金利子割引料)

(ヒ) 原告は借入金利息一一九万一二〇一円は、事業のための先行投資によるもので事業の必要経費であると主張するけれども、証人伊東満男の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告が主張する佐世保市崎岡二五六七―一(二四五六平方メートル)、同市崎岡二五一八―一(六三八平方メートル)の両土地は、当時その用途について具体的な計画もなく、店舗増設の現実性も認められなかつたのみならず、昭和四六年二月に取得してから昭和五六年一月末日まで、事業の用に供されていないことが認められ、これらの事情からみると事業の必要経費とはいえず、原告の主張は失当というべきである。

(フ) 大村カントリークラブ会員権所得のための借入金利息の経費算入が失当であることは昭和四五年におけると同様である。

(二) 原告は、昭和四六年分の事業所得の必要経費についても、以上の外に別紙目録(二)の「申告額」欄記載の金額が存在すると主張するけれども、前述二3(三)で述べたとおりの理由から、同目録(二)の「被告主張額」欄記載の金額を越えて必要経費が存在するとは認めることができない。

よつて、原告主張の昭和四六年分の必要経費金額のうち右「被告主張額」欄記載の金額を越える部分は、いずれも失当であつて、原告の必要経費は二四七七万〇〇一一円になるというべきである。

四  まとめ

以上認定したところによれば、原告の昭和四五年分の総所得金額は、一六九二万四〇〇五円に、同じく昭和四六年分のそれは一八九四万二四〇〇円になるというべきであつて、右各金額より所得控除(右各控除額については当事者間に争いがない。)をなした各金額の範囲内である課税所得金額に対してなされた右各年度の所得税の更正処分はいずれも適法であつて、これを取消すべき瑕疵はない。したがつて、国税通則法六五条一項により、右各更正により増加する部分の税額に一〇〇分の五の割合を乗じて得た金額の範囲内でなされたことが計数上明らかである本件各過少申告加算税の賦課決定処分も正当というべきである。

第三結論

以上のとおりであるから原告の被告に対する各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渕上勤 土肥章大 小宮山茂樹)

別紙目録(一)~(四) <省略>

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